徒然なるままに
現在でも学校で広く学ばれる代表的な古典、『徒然草』は鎌倉後期から南北朝時代にかけて兼好法師によって書かれた随筆です。序段を含め244段あり、作者である兼好が自らの心に去来する事柄を書き留めました。その内容は、多岐に渡ります。 38段までは人生や政治・恋愛や友情など兼好の自意識が、またそれ以降は無常、自然、出家、人間、文学など、様々なことが述べられています。文章も、内容によって異なってきます。評論的章段は漢文のような硬めの文章である一方、物語を描くような章段は前代の王朝文学源氏物語を参考にされており、前代の随筆である枕草子のような好きな物を列挙した書き方がされていることがあります。その様々な内容の章段や多彩な書き方から、読者に読む度に新しい発見を与えます。しかも江戸時代には、寺子屋と藩校で広く学ばれました。それも『音読』をして学んでいたようです。
以下は徒然草の序段です。
──つれづれなるままに 日くらし硯にむかひて 心にうつりゆくよしなし事を そこはかとなく書きつくれば あやしうこそものぐるほしけれ──
[現代語訳]なすこともなき所在なさ、ものさびしさにまかせて、終日、硯に向って、心に浮んでは消えてゆく、とりとめもないことを、何ということもなく書きつけていると、我ながら不思議ながらも、もの狂おしい気持がすることではある。ここで言う「あやし」とは「怪し・奇し」で、「不思議・神秘的だ」の意味(学研全訳古語辞典)※「日本の古典をよむ14 方丈記・徒然草・歎異抄」より一部抜粋
冒頭「つれづれなるままに」のあと、
「日くらし硯にむかひて」
「心にうつりゆくよしなし事を」
「そこはかとなく書きつくれば」
「あやしうこそものぐるほしけれ」
それぞれをワンフレーズと捉え、一息をちょうどいい長さで読み終えることができますね。そして、ワンフレーズにつき、意味上からまた2つに分けることができます。
「日くらし」「硯にむかひて」
「心にうつりゆく」「よしなし事を」
「そこはかとなく」「書きつくれば」
「あやしうこそ」「ものぐるほしけれ」
このような文章なら無理なく音読学習ができそうですね。できれば「つ、れ、づ、れ、な、る、ま、ま、に」と一音一音きちんと切って遠くに話しかけるようにしてみる良いでしょう。日本語には子音に必ず母音がつくことが感覚的にわかり、言葉の発達を促す効果が期待できます。息継ぎの場所や無理のない文字数など、全体的に言葉が整っていることには、さすが兼好の執筆力が光っている点に感銘を受けます。兼好が描き出す章段はどれも、余計な言葉は入っておらず簡潔で、その短い中に言いたいことだけを入れて言葉を紡いでいきます。音読した時に味わう日本語の響き方と読みやすさ、兼好の文章の組み立て方や表現。多くの子どもはじめ人々に親しまれた徒然草、永遠に読み継がれていってほしいと願います。